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アキトは長い上り坂を越え、遠くの学校を見下ろした。
いまだに怪しげな雰囲気の漂うこの中で、見慣れたその校舎のたたずまいはアキトに安堵感を与える。
「――道を教えてくれない?」
突如、辺りを包む静寂を破り、アキトの背後から声が聞こえた。
その声を聞いたアキトの背筋に悪寒が走る。
得体の知れない何かをアキトの本能が感じ取り、アキトは慌てて振り向いた。
その先にいる人影を凝視する。
そこには、黒髪の少女が立っていた。
少女はノースリーブの黒の上着に、膝までのスカートとその上に斜めにカットされた腰布を身に付けている。
上着と腰布は計4つのベルトで繋がれ、左足には螺旋を描いて巻かれた黒のリボン。
さらに漆黒のマントを身に纏い、それと一緒に少女の腰まである漆黒の髪がそよそよと風に揺れた。
この夏場に――というよりはこの日本において、マントを身に付けている人間なんて普通あり得ない。
だが、アキトは少女の異様なたたずまいよりも、少女の瞳に目がいく。
アキトが見つめるその瞳は、燃え盛る紅蓮のように、深く鮮やかな紅色を湛える美しい瞳だった。
アキトは少女の瞳に魅せられ、言葉を失う。
アキトがその瞳に見とれていると、少女は再びアキトに尋ねた。
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