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もちろん、いつも新谷の分まで調理するのはアキトの仕事だ。
「そんな目で見ないでくれよ。なぁ、頼むよ」
アキトは再度溜め息をつくと、仕方ないなと了解した。
「ただし……材料が足りないから買い物に付き合ってもらうよ」
「いいぜ、それくらいならお安い御用だ」
新谷がニィッと笑った。
アキトはそれにつられて笑みを浮かべると、ふと空を見上げた。
そこに広がるのは灰色の雨雲。
その雲は厚みを増し、時折雷のゴロゴロという唸りが遠くから聞こえてくる。
今日は雨の予報なんてなかったんだけどな……
「アキト~、早くしろよ」
アキトが不安げに曇天の空を見上げていると、新谷が急かすように言った。
いつの間にか立ち止まっていたアキトは駆け足で新谷に追い付くと、ごめんごめんと呟く。
雨が降りだす前に買い物をすませないとな。
アキトが少し足早に歩みを進めると、灰色の空にピカリと稲光が走った――
その夜。
雲に覆われ、激しい雨が打ち付ける真っ暗な夜の暗闇を、黒い影が舞った。
それはビルの谷間を駆け抜け、軽やかに宙を舞う。
その影が身を包むマントと、風に揺れる髪はこの夜の闇に溶け込む艶やかな漆黒。
漆黒の影は一蹴りでビルの屋上まで飛び上がると、ビルの屋上から屋上へ、次々と飛び移っていく。
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