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疾走するその影の紅い瞳が、テールランプのように光の尾を引いていた。
漆黒の影はビルの屋上からさらに高く跳躍し、林に囲まれた古めかしい神社を眼下に見つけると、不敵な笑みを浮かべる。
次いでそこに降り立つと、紅い眼で神社を睨んだ。
その傍らではしめ縄を巻かれた、おそらくこの神社の神木であろう杉の大樹が、夜の来訪者を前にザワザワとざわめく。
外は激しい豪雨だというのに、その神社の中はしんと静まり返り、聞こえるのは木の葉の擦れる音と滴った雫石が地面に跳ねる音だけ。
耳を澄ませば、吹きすさぶ風の音やアスファルトを叩く雨音が、遠くからわずかにくぐもって聞こえてくる。
夜の来訪者は石畳の小道を、神社に向かってゆっくりと歩みを進めた。
「……」
無言のまま、神社を見据え続ける。
カタカタ……
神社の横開きの戸が揺れた。
「――ここを教えてくれた少年には感謝しなきゃ」
漆黒の影は、歩みを止めると呟いた。
神社に向かって手をかざす。
そして囁くような小さな声で、言葉を紡いだ。
足元からは柔らかな光がこぼれ、囁きに呼応するように光が強くなる。
その光が結ばれて円と紋様を形作ると、突如そこから紅蓮の炎が噴き出した。
明々と燃える炎に照らされ、神社を見据えている少女の横顔が鮮明に浮かび上がる。
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