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遠くから響くセミの大合唱が、俺を真夏の朝に引き戻した。
なんともなしに部屋を見渡し、蚊帳をまくりあげる。
(ぐあ~あっち~)
近くにあったうちわの裏には何年前のものかわからない広告がのっていた。
(この女優、年取ってなくね? アンチエイジングってやつか? 女ってわかんねえ)
いまいち目が覚めないまま、布団の上でうちわをパタパタやっていると…昨日の出来事がようやく俺の頭に蘇ってきた。
「猫! お母上~! ここにいた猫、知らね?」
渡り廊下を誰かが歩いて来る。
おふくろだろうと見当をつけ、汗ばんだシャツを脱ごうとした俺の顔面に、なぜかタオルが飛んできた。
「うぷっ!」
「集真ッ! アンタねえ!」
ふかふかのタオルが落ちた向こうでは、昨日は顔を見なかった従姉弟の日向珈南が、仁王立ちで俺を見下ろしていた。
「れ? かな、いつ来たんだよ?」
「昨日の夜中。それよりも子猫! 今曹達が見てるけど」
「それを早く言えよ!」
答えを聞くや否や俺は廊下を走った。
後ろから、かなは黙って俺の後を追ってきた。
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