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付き合い初めて三日目の水曜日。
放課後のホームルームが終わって、隼人がわたしの席にやってきた。
「早紀」
呼び捨てされることに慣れていないわたしは、びくんと跳ねあがって相手を見上げた。
隼人は丸顔で少し子供っぽい顔つきをしている。
けれど、半袖の制服から覗く腕には、薄っすらと筋肉がついていた。
短く髪を刈りこんだ、いかにもスポーツが好きそうな男の子。
バスケ部に入っている隼人は、あまり背が高い方ではない。
そのハンデを乗り越えるべく、彼がどれだけ努力しているのかはよく知っている。
だって、中学のときからずっと好きだったから。
同じ高校に行けるって知ったときは本当に嬉しかった。
同じクラスになれたことも、まさか告白されるなんてことも、あの頃のわたしには想像もつかなかった。
隼人はもともとちょっと抜けたところがある男の子だったけど、高校に入って同じクラスになってから、急に忘れ物が多くなった。
そのときに助けを求めにくる相手は、だいたいわたしだ。
今考えれば、隼人なりの遠まわしなアプローチだったんだってことがわかる。
「えっと、今日……一緒に帰らね?」
つっかえながら出てくる言葉。
隼人は斜め横を向いたままだったから、耳が赤いのがよく見えた。
クラスの中ではいつも友達と大声で笑いあっているのに、彼はこういうときだけ少し声がかすれる。
「あ、う、うん」
わたしも鞄に荷物を詰めながら立ちあがる。
慌てていたせいで、椅子がガタンと音を立てた。
今日は週に一度だけの、部活が休みの日。
バスケ部に入っている隼人とは、こういうときじゃなきゃ一緒になんて帰れない。
二人で教室を出るのは恥ずかしかった。
仲の良い子たちには付き合い始めたって言ってあるけど、他のクラスメイトにどれだけバレているのかはわからない。
校門は下校する生徒たちで賑わっていて、その中には当然カップルもいる。
わたしたちも周りから見たらあんな感じなのかな。
そう思ったらちょっと顔が熱くなって、前髪をいじって隠す。
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