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そして神様。
もし、本当に神様という方がいるのならば。
どうかお願いです。
僕は、その小さな命を抱きしめた。
本当に本当に小さい身体だ。
その簡単に壊れてしまいそうな彼女を僕は力一杯、腕の中で抱きしめた。
どうか。
この命だけは。
奪わないで下さい。
僕はギュッと目を閉じ、どこかにきっといるであろう神様に祈った。
波の音が静かに、遠くなっていく。
『ねぇ。知ってる?』
無音の世界で聞こえる誰かの声。
『きっと良い奥さんになるから』
『遅いよ…嬉しい…』
細く落ち着いた声。
その中に育まれる一本の頑丈な芯。
彼女は自分の言葉にいつも自分の意思を埋め込み、それが少数派の意見だとしても最後まで貫き通した。
彼女は強いのだ。
潮風が僕たちの髪を揺らす。
僕は風から彼女を守る。
風さえも彼女の命を削っていきそうで、僕は怖くて仕方がなかった。
もう終着が近い。
「もう終わりだね」
腕の中の彼女はそう言った。
僕は心を読まれたみたいで涙が溢れた。
「ごめんな、空」
「もう、泣かないで」
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