13人が本棚に入れています
本棚に追加
「私ならもう、大丈夫だから」
彼女は微笑んでいった。
小さく柔らかい彼女の頬に触れ、その『最後』の感触を確かめた。
儚い。
儚すぎるよ、こんなの。
悔しくて悔しくて。
空の命を消し去ろうとする奴が僕は憎い。
そいつが目の前にいたら。
僕は両膝を付いてひれ伏し、頭を地につけ言うだろう。
それでも……
それなのに空は言うのだ。
「しょうがない、事だから」
何が、しょうがない、なのか僕には分からない。
分かるはずもない……
空。
君がいない。
それは僕にとって僕の空がモノクロになったに等しい。
それでも……
それでもと……
「歯磨き粉と洗濯洗剤は洗面台の下にあるからね」
「うん…」
「光熱費はもう払ってあるからね」
「うん…」
「フライトスーツ、ちゃんとアイロン、掛けておきました」
「うん…」
「ご飯、冷蔵庫にあるから。二三日は大丈…」
僕はさらにさらに強く、彼女を抱きしめた。
「大丈夫だよ。僕は大丈夫だから」
彼女の頬に誰かの涙が落ちる。
柔らかな尊い手が僕の涙滴を拭う。
まるで、誰かさんがそうしたように。
最初のコメントを投稿しよう!