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■『8 days ago』
まるで息の根が止まるようにエンジンは鳴りを潜めた。
汗が背中を伝わり落ちていく。
この気持ちの悪い感覚。
秋とは思えない外気温。
僕は酸素マスクつきのヘルメットを片手に、機体に掛けられた梯子を降る。
葛飾区。
航空自衛隊 水元基地。
革靴が焼け石のごとく熱くなったコンクリートに着地する。
10㎏もある装具を片手にオペレーションルームに歩を急がす。
有刺鉄線が張り巡らされた基地の外は田んぼと海岸しかない。
ただでさえ、人がいない、犯罪が少ないとという意味では平和なこの町に、有刺鉄線を張り巡らされている光景は何か違和感を覚える。
それでも僕は幸せだ。
時間は午後3時。
今日はアラートがないからもう帰れる。
デブリーフィングを終えたら荷物をまとめて、明日の予定をチェックして、身支度を整えたら帰宅だ。
心が高揚する。
この暑さのせいかもしれない。
ただ僕はそう信じていた。
この先に僕を待ち受けているものも知らずに。
ただ、漠然と。
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