暖かい手

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「そろそろ行かないと遅刻する。」 仁はゆっくりと立ち上がると今だに座っている友也を見下ろし手を差し出す。 「立てるか?」 「……うん。」 そう言って手を伸ばしてくる友也の顔は少し青ざめていて仁はほんの一瞬、苦虫を潰したような顔をする。しっかりと手を握った時、仁はいつもより幾分、声のトーンを落として言う。 「友也……俺にだけは嘘つくな。」 仁の大きな手に引っ張り上げられた瞬間、友也は胸に締め付けられるような痛みを感じ思わず胸を押さえる様に服を握り締める。 「俺は医者じゃない……気付かない時もある……。」 俯いている友也を仁は自分の方に引き寄せる。 「我慢されたらわからない。」 「うす……。」 友也はそっと仁に体重を預ける。こういう時、仁はいつでも友也を抱き寄せては「無理するな。」と少し怒り友也が落ち着くまでただ黙ってずっと腕の中にいさせてくれた。 どんな場所であろうと仁は周りを気にする事はなかった。 伝わってくる仁の鼓動と微かに香るデオドラントにホッとし段々と落ち着いてくる。時々そっと背中を叩いてくれる仁の手はやっぱり大きくて優しかった。
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