暖かい手

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 暖かい仁の手。 低い声はよく通り耳に心地いい。  授業を終えた仁と友也はそのまま帰らず蛍光灯が少し切れ掛かった廊下を進みいつも遊びに来ている部屋のドアをノックもせずに開けた。中を覗けば既に先客が居た。仁はその先客に近付くとひょいと抱き上げ小さく微笑む。 「今日も元気そうだなぁ」ちょんと鼻先をくっつければ冷たく湿っていた。 仁の手の中で「ミーミーツ」とカワイイ声で鳴いているのは最近、この部屋に居ついた子猫だった。雨の日に突然、舞い込んできた小さな訪問者。雪のように真っ白な子猫を見て仁は一目惚れをしてしまい勝手に「ユキ」と名前をつけ可愛がっていた。 「ユキぃ魚肉ソーセージ食べるか?」 普段、凛々しい顔をしているのにユキに接している時だけは何だか幼くなる。ユキを見つめる仁の眼差しにでさえ嫉妬を焼いてしまう。そんな風に思う度、友也は自分に自己嫌悪を抱く。相手は猫なのにと思うがその触れている大きな手が羨ましく時々、無理矢理、その手をユキから奪いたくなる。友也はユキと戯れる仁の背中を少し淋しそうな目で見つめる。 “仁……。” 声には出さず心の中で名前を呼ぶ。呼ぶ度に胸の奥が疼き切なくなる。
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