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「侑香里の声、だったよな? 今の」 「多分そうだと思う、けど」 「何かあったのかな」  字面だけを見ると落ち着いているように見えるが、彰は相当焦っている。というより、いてもたっても居られない、といった様子だ。私はそんな彰に声をかける。 「行ってあげたら?」 「え?」 「侑香里、心配でしょ?」 「そりゃ、心配だけど……」  行ってやりたいけど、行っていいのか迷っている彰に、私は更に言葉を重ねる。 「私なら大丈夫だから」 (本当は、怖いけど) 「侑香里には中西しか居ないんだし」 (ペアの人が居るから大丈夫だろうけど) 「侑香里は中西に傍に居てもらいたいだろうし」 (私の傍に、居て欲しいけど) 「ほら、行って」 (……行かないで)  本心は、言えない。だって彰は侑香里のものだから。私のものじゃないから。だから私は平気な顔で彰を侑香里のところに行かせてあげなきゃいけない。 彰は少しためらったが、小さな声でお礼を言うと、走っていった。彰の背中が見えなくなるまで、私は平気な顔をしていた。だけど、彰の背中が見えなくなった瞬間、頬に涙が流れた。
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