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湯上がりの、まだ薔薇の香りの残る肌に化粧水を叩き込む。
いつもより丹念なケアに、さらに丁寧なベースメイク。
一本一本眉毛を埋め込むように描き込むと…
頼りなげな、意志薄弱に見える『ナナミ』の顔から、『ナナ』に変わっていく。
…私とショウタの創りあげた…大事な作品。
私達は短い時間で、二つのかけがえのないものを創りあげた。
だらだらと過ごす時間を消費するばかりの人が多い中…
私は短いけれど貴重な時間を手に入れていたんだ、って思う。
春の日だまりのような、暖かくて…普段は恥ずかしくて口になんか出せない『愛』ってものを、そのままカタチにすればこうなるんじゃないか、なんて照れ臭い事を真面目に思わせる。
ショウコ。
そして…
コンプレックスも弱さも長所に変えてくれた『ナナ』。
私はこの二つの恋の忘れ形見を、きっと一生大事に抱えて生きていくんだろうな。
ショウタへの愛情がいつか風化して、もしも他の誰かの隣で笑っていたとしても…
ねぇ。そんな不変のものを手に入れられるなんて。
幸せ者だったね私。
ショウタといる時は気づけなかった…
そうやって失って初めて気づく。
そんなものなのかもしれないね。
ルージュをティッシュオフして。
『一番の私』に微笑んで語りかけた。
ショウタ。
一番逢いたくて一番逢いたくない。
一番愛しくて一番憎らしい。
私の中の『一番』を、占領し続ける人…
震える肩に気づかないフリをして、立ち上がった。
…自分を騙せなきゃショウタも騙しきれないよ。
まだ愛してる。
陳腐なセリフでショウタを困らせたくない。
伝えられない気持ちを抱えて切ないままでいるのが…
せめてもの私への罰だから。
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