今宵、月が見えずとも

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「くそっ」 治まりきらないいらだちを、コンクリートにぶつける。 しかし、じん、と返ってきた痛みが余計に男の気持ちを荒立てるだけだった。 左に手にした琥珀色の酒瓶を口元に掲げる。 その時見上げた空には分厚く雲がのしかかり、このマンションの屋上からでも手が届きそうなほど低く感じられた。 「(お月見、出来ないな……)」 呑みかかっていた酒瓶を下ろし、代わりに右手で目元を覆う。 「くそ……」 何度目と知れぬ悪態を吐いた彼の側を、涙と同じ匂いの風が通り抜ける。 赤茶色の髪が、慰めるように揺れる。 もうすぐ、雨が降りそうだ。
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