今宵、月が見えずとも

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数ヶ月前のこと、彼は久しぶりに中心街へ訪れた。 行き交う人々の中、信号待ちをしていると不意に人波が揺れた。 誰かが無理に前へ出ようとしているのだ。 「おっとっと」 皆が一様に顔をしかめて体を揺らし、それに導かれて彼は先頭へ出た。 そのまま車道にまで出されそうになるのをなんとか踏みとどまった。 「きゃあっ!」 隣の女性が後ろの勢いに負けて車道に出た。 同時にバランスを崩し、転倒した。 そこへ軽自動車が走行してきた。 運転手に転倒した彼女は見えていないようだった。 「(間に合わない……!)」 彼は踏みとどまっていた足を前に出した。 そのまま、自動車と彼女の間に立ちふさがった。
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