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「(勢い余って助けたはいいけど……)」
助けた女性に背を向けたまま、男は逡巡した。
彼の"種族"は人間との交流を暗黙の内に禁じている。
こうして街へ入る時も、なるべく人に紛れ、目立たないように出て行くのだ。
「あの……ありがとうございました」
立ち去るか、否か。
結論を出すより先に女性が声を掛けた。
地面にへたりこんだまま、声に振り返った男を真っ直ぐ見つめて礼を言った。
「あ、ああ……えっと、手を」
ぎこちなく手を差し出すと、女性は少し驚いたあと、照れくさそうに笑いながら自分の手も差し出した。
ゆっくり引き上げると、女性の身長は男よりも少し低いぐらいだった。
「怪我……あ、膝が」
「ちょっとすりむいちゃいました。でも大丈夫ですよ。それよりし、痛っ」
女性は何でも無い風に笑って歩き出そうとしたが、顔をしかめて動きを停止した。
信号が点滅をし出した。
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