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そして、それは突如起こる。
急に力強く抱きしめられたかと思うと、頭を優しく撫でられ、優しい声音が耳朶を震わせた。
「―――小真。」
大嫌いな梓の声だった。
でも失恋したばっかりの私は、心が弱っていた。
誰だってそうだと思う。好きな人に彼女が出来れば嫉妬して醜くなるか諦めて泣くか、呆然とするかのどれか。
とにかく、その時の私はおかしかった。誰でもいいから傍に居て欲しいなんて願っちゃいけなかった。
「小真、俺が代わりに愛してあげる。小真はただ、俺に愛されていて。」
コクリと無意識に頷くと、優しくて温かいキスをされた。
まさか、ギラギラと狂喜に塗れた目をして、そう、それはまるで獲物を前にした鷹のように、私を狙っていたとは思ってもみなかった。
数日付き合った。梓は外見では想像も付かないような紳士ぶりで、とても優しい。
正常な心の強さに戻った私は、ある時「なぜ私を彼女にしたのか」、と問いた時がある。それを梓はスッパリハッキリと「好きだから」と答えた。
清々しいほどに、それは「当たり前でしょ。」と言わんばかりの目をして言ってきた。
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