仮面

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     人生を円滑に進めていくために、人は偽ることを覚える。  誰かに構って欲しくて泣く赤子。偽りはそこから始まっている。やがて親に褒められたいために努力することを知る。他人に好かれたいために笑うことを知る。自分のことを認めてもらうために、自分でない何かを演じる。  そうして人は、仮面を被る。  人は仮面を被る生き物だ。    恋人と話す時の仮面と、会社の上司と話す時の仮面は違う。  まったく違う種類の仮面を、スイッチ一つで使い分ける。恋人に好かれたいために、自分の地位を守りたいために。まったく性質の違う幾つもの仮面を人は持っている。  私もそうだ。あなたもそうだ。私の知らない誰かもそうだ。  笑っている人の9割はそうだ。  泣いている人の9割はそうだ。  蔑んでいる人の9割はそうだ。  考えている人の9割はそうだ。  あとの1割は違う。いや、1割にも満たないかもしれない。  あとの1割にも満たない人は、綺麗な人だ。無垢な人だ。純粋な人だ。  人の本質を誰よりも理解している人で、誰よりも知らない人だ。  誰よりも自分に素直な人だ。    仮面の下の素顔を隠すために仮面を被る。  弱い素顔を隠すために仮面を被る。  見られたくないから仮面を被る。  そうして、自分の本質を守るために、自分の本質を忘れていく。  仮面を脱いでも、いつ被ったか知れない仮面がまた出てくる。仮面かも知れないものがまた出てくる。幾ら脱いでも、脱いでも、次に出てきた顔が、それが本当の自分の顔か、覚えていないのだから。    仮面の数が多い人ほど、世渡り上手だ。  そんな人ほど本当の自分を忘れている。  世渡り下手でも、仮面を持っていない人は、本当の意味で誰にでも好かれる人だ。    私もそうなりたかった。  だがそう思うことこそが既に、仮面なのだ。  だから私はそういう存在に成り得ない。    私は今日も仮面を被る。  そうして今日も、仮面を被る。
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