ラヴ・ソング

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     手持ち無沙汰になった。やることなすこと全て上手くいかない。全部放り投げてしまおうかと思ったけど、少し踏みとどまって、俺はそのエネルギーのベクトルを違う方向に向けることにした。  辺りを見る。何もない。仕方ないから、俺は俺に出来ることをすることした。        まずは"核"が必要だ。俺の今の気持ち、今の環境、今の状況を全てない交ぜにして、圧縮して凝縮して錬磨して研磨する。そうして出来上がった小さな小さな一つの集合体。それが"核"だ。それは指先くらいの大きさで、見る角度によって様々な色彩を見せてくれる。それは無尽蔵とも言える対立項を内包しつつ、全てを調和させ一つの統一体として存在する。それが"核"だ。  あとは自然の中心に添えた"核"を、少しずつ溶かしていく。難しい作業じゃない。"核"から零れ溢れ出た雫を紡ぎ合わせ、繋ぎ合わせていく。  気付けば鼻歌が漏れていた。  掠れた小さな鼻歌。蚊の鳴くようなハミングだったが、それは"誰か"の鼓膜を震わせたようだった。 「何をしているんだ?」  俺は言った。"ラヴ・ソング"だと。 「……ハッ」  一笑に付された。まぁいいさ、笑うがいい。俺がやっているのは酔狂の沙汰なのだから。  だが、酔い狂ってるのは俺だけじゃない。皆誰しも、この"核"の大部分のスペースを占める"絶望"に、酔い狂っていた。    俺は鼻歌を再開した。調律の狂ったおかしな鼻歌。それに合わせて欠片を組み上げていく行程は、まるで定められたジグソー・パズルを作っていくかのように順調に進められた。先ほどの男が苛立たしげに、抱えた膝を指先でトントンと叩いていた。俺のおかしな鼻歌とは違うテンポの苛立ち。むしろ俺の鼻歌に苛立っている風が見て取れたが、あまり気にしなかった。
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