ラヴ・ソング

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   大体の"形"が出来上がったところで、辺りを見渡してみた。  空は灼け、地は割れ、重苦しい曇天は容赦なく陽光を寸断し、ほんの少し前まで街であったはずのその場所の荒廃ぶりは、そこに住まっていた人々の心を酷く抉った。聞こえる音といえば、爆発音と、家屋が倒壊する地響きのような音と、その間隙を埋める子どもの泣き声や誰かを呼ぶ叫び声。そんな中で小さく小さくいかれた鼻歌に興じている俺という人間は、やはり狂っているのだろう。  相も変わらぬ風景に零れかけた溜息のやり場に困った。世界は今、溜息と泣き声ばかりだ。そこからできた核からなぜ"ラヴ・ソング"が生まれたのか、理由は果たして想像もつかない。俺は決してラヴ・ソングを作ろうとしたのではなく、"核"を溶かしてみた結果、なぜかラヴ・ソングの形が出来上がったのだ。完成してみれば理由も分かるだろうかと思い、俺は三度、作業に戻った。    途切れ途切れの掠れた鼻歌が再開される。それと同時に、俺は胸倉を掴まれた。  開いていたのかも定かでない二つの眼で、俺の胸から生えた腕の正体を見る。やはり先ほどの男だった。どうやら本当に、俺の鼻歌が気に入らなかったらしい。俺の汚れたシャツを掴む腕の力は強かったが、その足取りはふらふらとおぼつかない。俺は殴られた。シャツは掴まれたままだ。二、三と続けて殴られた。衝撃で頭が吹っ飛びそうになる。ぼやける視線で男を見ると、俺を殴ったからか、それとも別の理由からか、大きく肩で息をしていた。俺も男も、言葉を発さなかった。男は俺を解放し、おぼつかない足取りのままでどこかへ歩いていった。  口の中が切れていて、鉄の味がした。    一息吐くと、俺は四度、鼻歌を再開した。
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