花火

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    「例えば、例えばだよ」     お決まりの口上句を口にした後、彼女はゆっくりと話し出した。   「例えば明日が来ないとしたら、私が生きた過去も、君とこうしている今も、無意味なものになるのかな?」    言い終えると同時に、夜空を花火が彩った。  鮮やかな色彩が夜空の真っ黒なパレットを染め上げる。彼女の視線は花火に奪われ、大きな目はさらに見開かれた。  しかし花開いたのもたったの一瞬で。光は宵闇に吸い込まれていくかのように消えていってしまった。     彼女は残念そうに小さく嘆息すると、視線を僕に戻した。  脳内に強烈に残った花火の幻影と彼女の大きな瞳が重なる。  彼女の訴えに見合った答えを見つけることはすぐにできたが、それはひどく輪郭が朧げで不明瞭だった。だから、すぐに答えることができずに押し黙った。      再び、腹の底に鈍く響き渡る轟音が鳴る。  数瞬遅れて、光の塊が夜空に花開いた。  彼女は、僕もまた、それに意識を奪われる。  今度は連続で打ち上がった。幾つかの光の球が夜空で弾ける。折り重なるようにそれらは弾け、消え、また弾ける。そして消える。    僕はふと、気付かれないように視線を隣の彼女へと移した。  一つ一つの花火が打ち上げられるたびに驚嘆し、ころころ変わっていく表情。完全に消えてしまうまで見ている所為で、忙しなく夜空を駆け巡る大きな瞳。  彼女は花火一つ一つの終始を見逃すまいとしていた。  せっかく綺麗に咲くのに、一瞬で消えてしまう花火たちを。      もしも消えずにずっと輝き続ける花火があったとしたら、それは綺麗だろうか。  姿形を変えず、輝きもくすまず、永久的に維持し続ける美?  それは果たして、意味を持っているのだろうか。    儚い。だから美しい。詩的で他人の言葉を借りただけだが、言葉にするならこれ以上に適したものはない。  花火によく云われるそれだけど、それが全てじゃないのか。     「例えば明日が来ないとしたら、僕は最後の瞬間まで精一杯、輝くよ」      命の火を燃料とし、僕は自分を輝かせるだろう。  もしもその時に君が隣にいて、僕と一緒に輝いてくれたら、僕は最高なんだけどな。それは恥ずかしくて言葉にできなかった。    花火のように輝くには、僕はまだまだ力不足のようだ。      一際大きく、夜空に花火が舞った。  どうやら僕を、馬鹿にしているらしい。      
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