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   ある雨の日。人々に嫌われていた黒い猫は車に撥ねられて、コンクリートの上でペシャンコになった。  少し汚くなってしまった毛を雨が濡らす。  体は凄く、凄く冷たかった。凄く冷たいのに、どんどん冷たくなっていく。氷よりもずっと冷たく、自分の周りのものを凍らせてしまわないか不安になるくらい冷たい。  それでも心はまだ、まだほんの少しだけ、温かかった。  命の灯火が体から消えてしまう。人々から石と心の無い言葉を投げられ続けた黒い猫の命の灯火が体から消えてしまう。  消えてしまう。その直前だった。  ペシャンコになった黒い猫の前で、誰かが立ち止まった。  立ち止まって、しゃがみ込んだ。  しゃがみこんで、泣いた。泣いていた。ずっとずっと、泣いていた。      黒い猫は、心が一杯になって、温かい気持ちのまま、目を閉じた。  
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