第11章 氷の洞窟

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連夜は黙ってうなずく。 周りのみんなも動揺しているが、なぜか紅と聖也だけは冷静だった。 「その事なんだけど……私から話させて」 改まって話を切り出す紅に、一同はしんと静まり返る。 静寂に包まれた洞窟内部。薄い氷の壁が青い光を放ち、六人の姿を静かに移し出す。冷え切った空気が各々の呼吸を整えると、語り手の場を作り上げた。 全員が頷くのを確認した紅は、一呼吸置くと静かに語り始める。いつになく真剣な目つきで話す紅に、聖也ですらその緊張感に捕らわれた。 「その七瀬零は、もう普通のプレイヤーではないみたいなの。洞窟内で急に私と聖也を襲ってきて、さっきまで二人で戦っていたんだ。でも並みの強さじゃなくて、仕方なく私の瞬間移動スキルを使って逃げてきたの。だから、貴方達の戦闘中に私達がここに出てきたわけ。あと、彼は戦う前に計画がどうとか、ドラゴンがどうとか……色々言っていた」 一通りの話を終えた紅は目を閉じて、一息ついた。 輝樹達は、驚きを隠せなかった。 自分達がこの世界に来たばかりのとき出会った、七瀬零は……他のプレイヤーを襲うような人物にはとても見えなかったのだから。 四人にとって、にわかには信じ難い話である。 「計画……か。RPGではよく悪役が言うセリフだよな」 「あの人には裏があったいうんか?俺の感じでは、心の底から温かみのある人やったで」 「言い忘れていたけど、彼の父親はこのゲームの製作者みたい」 その言葉に、またしても仰天する聖也を除いた四人。 ペンギンといい、仕掛けといい、突然のゲーム仕様の変更といい……この洞窟に来てから、驚きの連続だ。 「今、この世界に一体何が起こっているんだろう?聞いた感じだと、七瀬さんの父親が関係しているのかも……」 「その可能性は十分にあるな。何せ、ゲーム自体をいじくりまわすなんて製作者かかなり腕の立つハッカーぐらいだろ。七瀬の父親が、何かを考えて事を起こしたと考えるのが妥当だと、俺は思うぜ」 輝樹の推測に、聖也が切り出す。こちらも真剣な面持ちで、この場が一転して会議室にでもなったかのようだ。 考えるほど、全員の顔は険しくなっていく。 それは誰が見ても、事の深刻さを物語っているものだった。
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