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数十分程歩いていると地面の雪はだんだんと薄れ、青白い雪原から緑色の草原へと姿を変えていく。
肌に感じる空気も、温かい草原の風が頬をなでる心地よいものとなった。真上を見上げれば、雲ひとつない海のような青々とした空が広がっている。
「ん~?何あれ」
振り返った紅が指差す先。見ると、後方の空に黒い点のようなものが見える。
その物体は南方から徐々に北上してきているようで、少しずつ輝樹達の方に迫ってきた。
「あれは……ドラゴン!?」
やがてその物体の全貌が明らかになってくると、真っ黒な龍を形作った。
漆黒の龍は、全員のもとにゆっくりと影を落とす。
その体は徐々に巨大化され、真っ赤に燃えた瞳までもがよく見える。
「グオオォォ……!」
一吠えすると、黒き龍は、輝樹達には目もくれず北のほうへと飛んで行った。
その姿が北の彼方へと消えて行ったと同時に、例の大都市がハッキリと目に映るようになった。
「なんや。こんな広々とした大草原で見つからないっていうのも、おかしな話やけど……それより、グレース都市が近付いてきたで」
少しばかりの緊迫した空気が訪れたが、やがて六人は何事もなかったかのように再び歩き出す。今はもう、間近に迫ったグレース都市へと進む。
頭の中は次の都市の事で一杯の輝樹達だが、紅だけは別の事で考えを巡らせていた。考えるあまり、ふと立ち止まって輝樹の方を見る。
紅は七瀬零の言葉、そして今のドラゴンといったワードを頭の中で関連付けていた。そして真っ直ぐに輝樹の頭の上にいるリクを見据える。
赤き龍の子は、自らの特等席で静かに寝息を立てている様子だった。
「おい姉貴。なに急に立ち止まってんだ?置いてくぞ」
「え?……うん」
前方から声をかけられ、ハッと我に返る紅。
どうにも腑に落ちないような顔をしながら、急ぎ足で五人の背中を追った。
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