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 「相川、君?」  「落し物に気が付いてないみたいだったから追いかけてきたんだけど」  「え?」  差し出された手には一冊の文庫本があった。慌てて鞄を探るとあったはずの小説がない。中途半端に閉めた鞄から落ちてしまったようだ。  「あ、有難うございます」    「ていうか築城さんも家ここらへんなんだね」  相川は言葉を続ける。  「一緒に帰っていい?」    「え」    今まで経験しないことに七瀬の身体が緊張で強張る。耳元で蘇るのは近寄るなといういつかの声。  「でも、クラスの人たちと何かあるんじゃないですか」    「俺さ、まだここら辺の地理分かんないからさー、引越しの片付けもしなきゃいけないし。今日は断った。だから一緒に帰ってもいい?」    にこにこと人懐こい笑みを浮かべる彼に思わず頷く。誰かとともに帰るということが慣れなくて七瀬は俯きながら歩く。  静寂が奇妙な重圧を持って二人を包んでいた  「相川君は、ご両親の仕事の関係で引っ越したんですか?」  根をあげたのは七瀬だった。  小さな声で尋ねると、彼は首を一度傾げてから横に振った。  「違う。どうしても逢いたい人が居るから、俺はここに来た」
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