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   「おはよー、築城さん」  教室に入った瞬間にかけられた声に七瀬は戸惑う。教室の真ん中で要が笑っていた。  その笑顔が、何故かとても恐ろしい。自分に今まで向けられたことのない優しい、笑顔。嬉しいはずなのに、違和感と恐怖が七瀬の体を硬直させる。  必死に呼吸を整えて、唇を薄く開いた。  「おはよう、ございます」  漸く出た声は掠れて、届かない程に小さい。クラスメイトが自分を見るのを感じた。  「笑おうよ。せめてさー」  かっと頬が熱くなった。喉が震えて、どうしても下を見てしまう。  「表情の作り方が分からないんです」  それは、嘘を織り交ぜた真実。ユエ以外の人物の前で、どうやって感情を見せたらいいのかが分からない。  「簡単なのに。ほら、口をさー」  要が七瀬に話しかけるのをクラスメイト達はただ怯えたように見ていた。その視線が嫌で堪らない。  気が付いているのかいないのか、要は七瀬の口元に手を伸ばす。悪意ない筈の行為に、クラスメイトの怯えた瞳。もう、耐えられない。  「すみません、私ちょっと席外しますね」  なんとか表情を繕って教室を出る。背後から追うように会話が聴こえてきた。  ――なんで築城さんと話すの?  ――なんでって、クラスメイトだし。  ――あの子と話すとロクなことないよ、昔もそうやって誰か死んだって聞いたし。  耳を覆いたくても聞こえてくる。泣きそうになって、涙を必死にこらえた。  居場所はここじゃなく、ユエの居る家なのだ。そう思っても自分が現実から逃げているようにしか感じられない。  結局何処までいっても、ユエ以外の人間は自分から離れてしまう。ユエに依存することが怖くてたまらない。  狂おしいまでの矛盾と葛藤。自分が引き裂かれてしまうようで、どうすればいいかが分からなくなっていく。
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