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瞳に映る景色は腐敗し、歪んでいた。かつてあんなにも輝いた世界はもう存在しない。
バルコニーに追い込まれた青年は耳元で絶望を聞いた。
「失せろ。姫はもはや貴様を必要としていない」
なにも言えなかった。信じたくない訳ではない。その事実はずっと以前から確かに気がついていたことだった。
それでも彼は護りたかった。たとえどんな手を使おうとも。たった一人、唯一のを。
「残念だったな。騎士から脱獄者まで堕ちるとは本当に哀れな」
嘲笑とともに翼に手を掛けられる。振り解きたくとも彼の手についた枷はそれを赦さない。
ぶちぶち、という音を立てて翼が引き裂かれていく。身を二つに引き裂かれる痛みに彼は声鳴き悲鳴を上げた。
それは翼の喪失の痛みか、全ての事柄の哀しみなのかは分からない。
「さあ、いね」
振り下ろされる気配から逃れようと身を捩り、彼は背から飛び降りた。
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