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「築城さん」
にこにこと笑いながら、要は何度も七瀬に話しかけた。七瀬は表情を引き攣らせながら、首を振ったり小さく相槌を打つ。
周りはちらちらと七瀬たちをうかがっている。要を心配するような、目線。そしてその視線自体が七瀬への牽制でもあった。傷つけたらただではおかないというような、そんな。
別に傷つけたくて傷つけ続けたわけではない。自分でもその理由がわからないのに。胸の奥が詰まって、引き攣ったような呼吸しかできない。どうしてか、七瀬は要が怖くてたまらなかった。
要に違和感を感じる。どうしても怖い。泣きそうなほどに怯える自分の存在。
「要くん」
「ん? どうしたのー?」
クラスメイトが要に声をかける。にこにことした表情を崩さないまま、対応している。七瀬に向ける笑みと変わらない、人懐っこい微笑み。
「築城さんと関わらないほうがいいよ」
「さっきも聞いたけどさ、なんで?」
浮かぶのは、怯えと優しさ。けれど発せられる言葉は七瀬の胸を抉った。何度も言われ続けた聞きなれた言葉でも、傷つく痛みは変わることはない。
「要くんも、殺されちゃうよ」
七瀬は唇を噛み締めた。要の反応を何となく見たくなかった。苦手意識を抱いていようと嫌われたくはなかった。わがまま、なのかもしれない。けれどようやく得た、普通に対応してくれる人間を失いたくなかった。
「あんた、そんなくだらないこと言ってちゃ駄目だよ。たまたまの偶然が重なっただけで築城さんのせいじゃないでしょ」
響いた言葉は凛と空気を震わせた。その瞬間、要が全てを知りながらも七瀬に対応していたことに気がつく。憐れみかもしれない優しさ。思い出すのは、一瞬見えた灰色の翼。
「俺は築城さんを信じてるよ」
そう言って要は七瀬のことをじっと見た。けれど七瀬はその言葉を聞いても、要に対する恐怖が薄れることはなかった。
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