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「あれ、ユエさん?」
「……七瀬」
夢うつつのような心地で歩いていたら、上から声が降ってきてユエは顔を上げる。どうやら家の近くまで歩いていたらしい。首を傾げながら自分を見据える少女に、胸の奥から強い感情が溢れてきて苦しかった。
それを振り払うかのように走って部屋の前まで駆ける。鍵を開けることすらもどかしかった。
「帰った」
「御帰りなさい――って、口、どうしたんですか?!」
「乾燥したからじゃないか」
咄嗟に真実を言えずに嘘を吐く。七瀬は納得したように笑った。
何処か何時もより不安げな微笑にユエの中で疑問が膨らむ。
「どうした?」
「初めて、友達が出来たんです」
「いいことじゃないか」
何故そんな表情をしているのかを聞くことが出来ない。
先ほどの少年の表情が過る。空虚な笑みに、狂気的な光を宿す少年の。
もしやという考えが胸を覆ってぞっとした。ありえないと考えを否定しても否定しても否定しきれないのだ。こんな予感は大抵当たってしまうのだとユエは気が付いていた。
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