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 少女は一人、止まない雨の中を歩いていた。優しく全てを包みこもうとする雨すら、彼女には何一つ恵みをもたらさない。  小さく吐いた息は、雨に飲み込まれて消えていく。  彼女は雨が好きだった。自分という存在を融かし包み込むような、そんな優しさを感じたからだ。  彼女の中で孤独は常に共にあった。孤独であると云う事が分からない程に常に近くに。  誰かに手を伸ばすことを諦めたのは何時からだろう。  彼女は両親の顔も知らない。記憶の始まりは常に彼女に怯える伯父夫婦だった。 恐怖の理由は七瀬の周りで死ぬ人物が多かったせいかも知れない。    彼女が高校に進学した時に、彼らはアパートの一室を与えた。  「お前が卒業するまではお金は振りこんでやるから」  安い家賃でありながらも綺麗な一室は追放の地であった。少女は全て受け入れていた。そしてその現状に満足していた。  此処に居たら少なくとも幸福で居られる。それが救いだった。 家具の少ない2LDKの部屋の中は彼女の箱庭だった。形見である数冊の本と鍵の付いた母の日記だけがあればよかった。
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