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 家の前まで来たとき、彼女は違和感を覚えた。アパートの前にある小さな公園に何か朧な影を見つけたのだ。    見間違えかと錯覚するほどに小さい影だった。  導かれるように歩いて、それが人の形をしていることに気がつく。木に凭れかかるようにして居る影。    そこに彼は居た。  氷の彫像のように美しい青年だった。  長くうねる黒髪は肌に張り付き、肌は死人のように白く青ざめている。そして、彼の背には折れまがった紫紺の翼があった。少女の眼前で翼は色を失い、雨に溶けるように消えていく。    薄く青年が目を開き、肩に伸ばした手が熱を持った手に引かれる。  「見つけた」  掴まれた掌が燃えるように熱い。ずくずくと音を立てて、体中が燃え上がるように苦しくなる。  「どうか、御救いください」  縋りつくような表情は、幻のように彼女の胸に焼きつく。  それは初めて生まれた感情。  ずっと求めた人に逢えたような、泣きそうな程に苦しく、そして嬉しい。  助けなくてはと、思った。この人を助けなくてはいけないと思った。左頬のガーゼの下で、首に巻いた包帯の下で、刻まれた文様が熱を持って疼く。  雨が包み込むように降り続いていた。
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