2人が本棚に入れています
本棚に追加
「えへへ。じゃあ私の運を信司君に少し分けて上げましょう」
むむむ~,と手の平を信司に向けて何かを念じている少女を見て,信司はくすりと笑って一日の始まりを感じた。
あれからと言うもの,ホームレスの男の遺体が発見されたという事件もなく,町民たちは男が見当たらなくなり最初は不思議がっていたものの,それも次第に無くなっていった。
男が居なくなった事によって人の寄り付かなかった川原にも町民たちが通行するようにはなったが,まだ遺体は発見されていない。腐敗臭,野良犬対策は済ませているので自然に見つかる可能性は低い。
殺人という重罪を犯してなお,それは誰にも知られること無く信司はいつも通り過ごしていた。
そして今日も半日があっと言うまに過ぎ去り,信司は帰宅するため校門を潜った時だった。
「信司君,家まで鞄を持ってあげようか?」
帰ろうとしていた所で朝と同じように少女に声を掛けられた。
「大丈夫だよ。毎日ありがたいけどそこまでしてくれなくていいよ,朝は一人で学校に来てるんだから帰りも一人で大丈夫さ」
「でも,辛いでしょ?その足じゃ」
「その気持ちだけで嬉しいよ。ありがとう、毎日」
少女は顔をぽっと赤らめ,信司にそれを悟られないようそらした。
「そ,そう?じゃあまた明日ね」
「うん。明日もよろしく」
信司はそう言って少女に別れを告げて家路を歩き始めた。
本心は少女と一緒に下校したい。鞄を持って欲しいという理由もあるが,信司の年頃の男子としては女子と一緒に下校するのは夢のような話である。しかし一緒に下校されては困るのだ。
信司は帰宅する前にいつも寄り道をする。男の遺体を隠した場所に信司はあの日から毎日訪れているのである。
ブルーシートとダンボールを剥いでいき,現れた男の遺体はもはや黒い人型をしたただの木のようになっていた。血液は全て乾ききっており肉は腐りはて,骨が露骨に浮かびあがっている。唯一人の形を形成している骨ももうじき崩れてしまうだろう。
もう少しだ。もう少しで遺体が腐りきり,容易に解体できるようになる。そうすれば川に細かくした遺体を流す事ができるだろう。
最初のコメントを投稿しよう!