~第一章~

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 殺人を隠蔽しようとするのに一番困難な事は遺体を隠す事である。よって遺体の隠蔽を諦め殺人の証拠を隠すのが普通であるが,もっとも殺人という行為を隠すに簡単なのが遺体を見つけられない事である。遺体がないのなら殺人は立証されない。しかしもっとも難しいのも遺体の隠蔽。まずはその質量。この男なら70㌔の体重はあるだろう。遺体を誰も目に付かない所まで運ぶというのは相当な労力を必要とする。ましてや途中で目撃される可能性も高い,それでは運ぶという行為そのものの意味がない。次に大きさが問題視される。人を隠すにはそれなりの大きさの場所を必要とする。遺体を埋めるにしてもここは草むらでありここに埋めるとすると草を除去しなければならなくなる  そこで信司の取った策は遺体を細かく解体し,川へ流す事だった。遺体を腐らせ解体を容易に行えるようにし,その破片を川へ少しずづ流す。時間が掛かる作業だが遺体を隠蔽時に誰かに目撃される可能性は低くなり,労力は格段に減るだろう。後は遺体が見つからないようにする事に専念すればいい。  遺体が無ければ男は行方不明者として扱われ,信司の殺人行為は明るみになる事はないだろう  信司はそうして一日10分程度遺体を確認しに川原にやって来ているのだ。ブルーシートを掛けなおしたり遺体の腐り具合などを確認しているのだ  今日も確認は終了。この調子でいけばあと三日程で頃合いだろうと思案しつつブルーシートを掛けていると 「おーい信司君何をしてるの?」 後ろから大きな声が聞こえて来た。  信司が慌てて振り返ると,そこには毎日顔を見る少女がこちらに手を振っているのが見えた。  心臓の音が一気に高まった。まさに犯罪者が警察に見つかったのと同じ心境が信司に駆け巡る。  信司の思考があっという間にパニックに陥っている間に少女は草を掻き分けてゆっくりと近づいてくる。 「くっ来るな!」  信司は叫んでみたが少女が歩み寄る足を止める気配がまったく無い。それどころか信司の焦る様子を見てさらにこちらに興味が湧いたのか近づく足を速めた。 「何か隠してるの?もしかして子犬とか?」  少女は残念な勘違いをしながら信司の元にたどりつき,ブルーシートを捲ってしまった。 「ひっきゃああ!」  まあ驚くだろうな子犬かと思って捲ってみればミイラ同然の人間の遺体なんだから。しかも頭が潰れているとくれば泣き出してしまうのも当たり前だと思う。
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