2人が本棚に入れています
本棚に追加
2001年6月
河原で少年達が野球に熱中している。
少年達の年齢はおよそ中学生くらいだろう。少年達が通う学校は全校生徒の数が非常に少ない、加えて校舎も校庭も小さく野球部員はわずか13名。県大会はおろか市の大会にも出た事も試合に勝ったことも無い弱小野球部だった。
今、河原にいる少年達はその野球部員である。校庭が狭すぎて練習することができず、練習場所を河原にしているのだ。しかし学校側は部活動にあまり力を入れているわけではないらしく、部費はおろか監督を務めているはずの教師すらめったに練習に顔を出すことがない。少年達も大会に優勝したい!とか上手くなりたい!等の目標は持っていない、ただ野球が好きだからとか他にすることがないからという者ばかりで部というよりも同好会のような集まりであった。
「おい蘇我、なに格好つけてんだ?」
そしてお決まりとも言えるが部内のいじめである。少年達の中の一人、蘇我信司(ソガシンジ)は一人で素振りをしていると4人の少年に囲まれてしまった。
「格好つけてるってなに?僕は練習をしてるだけなんだけど」
「おまえ、推薦を貰ったからって調子のってんじゃねえぞ」
4人の少年のうちの一人の少年が信司の脚を蹴った。それも男子がじゃれ合う程度のものではない、信司の脚がめしりときしむ音のする程激しいものだ。
「あっ!」
たまらず信司は脚を押えてうずくまった。ズボンの上からでは分からないがこの時の信司の脚は大きく腫れ上がり、すぐに血抜きなどの手当てをしなければ危険な状態となっていた、それは最悪の場合、血液が組織を圧迫し壊死してしまう。
少年の言った推薦と言うのは信司が野球部の交流戦に出ている時、たまたま来ていた野球の強豪高校の野球部の部長と監督が信司のプレーを見たらしく、そのプレーとセンスに感心し交流戦終了後、学校に連絡がきたらしく高校から信司は推薦を受けたのだ。少年達は選ばれた信司に嫉妬しいじめに発展したという典型的なパターンだった。
信司はそんないじめに一年間耐えた。日々過剰になっていく暴行に黙って耐えていられてのは、信司にとって学生生活で唯一夢中になれるのが野球だったからだ。信司の住んでいるところは超が付くほど田舎であり町にはゲームセンターもコンビニもなく、娯楽施設は一つもない。加えて駅まで徒歩で4時間、バスは2時間に一本しかなく回りは山々で囲まれており、国道、県道、市道、通っていないため外から車はおろか人さえ町に入ってこない。
最初のコメントを投稿しよう!