~第一章~

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(なら、都合が良い…)  頭の中で声が聞こえた気がした。  (これなら気持ちよくやれそうだ…)  誘われるようにバットのグリップを強く握る。  (ああ、ちょうど良いエモノもある…)  男はようやく信司の持っているものに気づいたようだ。男の顔がどんどん青ざめていく…  (さあ、始めよう!)  頭が真っ白になっていく、体は感覚がなくなっていく、思考がどんどん別のものに塗り潰されていく。  高く振り上げられたバットは勢いよく男の脳天に振り落とされた。  ゴチン!とまるで地面を殴ったような衝撃がバットを伝い両手に感じた。  (駄目だ、)  男は殴られた箇所を押えて蹲っている。  (一撃で仕留めれないじゃないか……)  バットを握り締め再びバットを振るった。今度は横にフルスイング。鍛えられた体から振られたバットは時速100㌔のボールを打ち返す威力を持っている。人間の頭を潰すなんて容易いものだ。  男はバットに頭を豪快に弾かれ絶命した。しかし足りない、1年間耐えていた信司の怒りはこんなものでは消えたりしない!  倒れて動かなくなってしまった男の身体にまたがるようにして立つと頭に向かってバットを何度も何度も振り下ろした。  ゴンゴン!  ゴチャゴチャ!    グチャリグチャリ!  何度も叩いていると音が変わってきた。バットから伝わってくる感触も硬いものから軟らかいものに変わっていったのもわかった。  グチャリ!と、バットを振り下ろしてから信司の意識がゆっくりと戻ってきた。 「うっ!…おえぇ!」  そして目の前の光景をみて吐いてしまった。昼に食べたものを出し尽くしてもまだ足りないというように胃が空っぽになってもまだえずいた。バットには血液が滴を垂らしていて、金属バットにも関わらずボコボコに変形してしまっていた。  地面が動いているかと錯覚するほど足が震える、手足の先から心臓に向かって血液が集まってような感覚とともに訪れる不安感と焦り、動揺が大きな怪物のように襲い掛かってきた。  人を…、殺した……  わずか5分程度で、1年間我慢していた事が…終わった。  虐めてきていた奴らを殴って暴力事件を起こす方がまだ良かった。殺人なんて野球人生を失うどころの話ではない。人生を失う事に等しい。未成年者は青少年保護法によって事件を起こしても名前や身分を公に明かす事はされない。少年院をでても前科なども明かされる事はない
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