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母の声で足元を見ると,確かに脛の下辺りがぼっこりと腫れ上がり血が流れていた。
おそらく少年達によって付けられた傷が原因によるものだろう。
初めてあいつ等が役に立つと思えたな・・・
「それ,練習の時にぶつけちゃってさ,もう痛くは無いから消毒してガーゼでも貼っておけば大丈夫だよ」
信司が足を軽く動かして見せると,母は少し安心したように見え,中腰をやめて立ち上がった。
「そう?まあちゃんと動かせるようだし,今日はもう病院は閉まってるから手当をして大人しくしててね?明日に学校が終わったら病院に連れて行ってあげるから部活は休んでちょうだい」
「分かったよ。手当ては自分で出来るからさ,悪いけど服を洗っておいてくれる?」
信司は玄関でズボンを脱いで母に渡すと,早々と風呂に入った。
風呂で全身の汗と血を洗い流し,傷の具合を見た。
腫れた箇所は皮が裂けており,お湯をかける度に激痛が走りべろりと皮が水圧によって剥がれた。見るだけで痛い光景だが,笑える事に頭の潰れた人間を見た後だとなんて事はない。
風呂から上がると母が傷の手当の準備を済ませていてくれた。
手当ては傷を消毒し,ガーゼを貼りつけただけであり,時間にして10分も掛からなかった。
傷の手当を済ませてからすぐに自分の布団へと入り,部屋の電気を消した。
目を瞑ると静寂が身を包むと共に今日の出来事が瞼の裏で再生された。
あの頭をバットで叩き潰す光景,音,感触がリアルに脳内で再現されて行き,身体が震え始めてきた。
振るえを抑えようと布団を深く被り,身体を丸めてみたが身体の振るえは一向に治まる気配がない。その振るえに対して信司に苦しむような様子はなかった。それよりも信司の顔には”笑みが浮かんでいる”。
信司の身体の振るえの原因は人を殺してしまった恐れや後悔から起こるものではない。バットが頭を砕く感触,まるで人間一人を支配したかのような高揚感。あの行為の何もかもに興奮した。初めてゲームを買って貰ったとか試合でホームランを打ったとかそんな感動なんか話にならないくらい”楽しかった”!思い出す度に体をゾクゾクとした感触が走り,心臓がまるでエンジンのような原動機となり熱くなった血液を身体中に巡らせ,脳からは大量のアドレナリンが分泌され活発に活動しているのが分かる。
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