シークレット・ガーデン

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「…ふぅ」 カーテンとシャンデリアに包まれた大広間を抜けてベランダから、僕は庭に降り立った。 北国ネクロスの気候は我が国よりも寒く、日差しある日中でも通る風は冷たい。しかし、人と空気に酔った自分にはその涼しい風が心地よかった。 「ここは…庭か?」 目の前に続く薔薇の生け垣は遥か遠く、離宮とおぼしき城の方まで続いていた。 ルスラン城に負けず劣らずの絢爛豪華な造りであるのに、どこか暗く重く落ち着かない気がする城内とは違い、この庭は好きになれそうだ。僕は土を軽く払うと、生け垣に囲まれた庭園に向かって走り出した。 しまった、と思ったのは暫く経ってからだ。30分後、僕は広すぎる庭園の中で途方に暮れて噴水の傍で立ち竦んでいた。 城の位置から見る限り、離宮と本城の丁度真ん中辺りにいることは間違いないだろう。しかし、この複雑な道をどう辿れば帰れるのか見当も付かない。 「こんな事ならお祖父様の傍を離れるのではなかった……」 悔やんでみたところで聞いてくれる者は誰もいない。 大人同士の社交と語らいに飽きて、こっそり抜け出してきたのが間違いだったのだ。 少ししたら帰ろうと思っていたのに、生け垣が高過ぎて自分が北に居るのか南に居るのかすら分からない。僕は大きなため息をついて、すべすべした噴水の縁に座り込んだ。 その時だった。 「足音……?」 静かな庭園に自分以外の足音を聞いて、僕は面を上げた。 音の様子からするに、さほど遠くはないようだ。僕は弾かれたように立ち上がり叫んだ。 「どなたか…どなたか居ませんかっ!」 ざっ…… 足音の主はどうやら立ち止まったようだ。しかし、返事はない。 「誰か居るなら…返事を…!」 再び声を張り上げようとした僕の身体の中に突然、誰かの声が響き僕は跳ね上がるように立ち止まった。
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