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「城までの道筋が知りたいのではないのか?」
「あっ、ああ……お祖父様の傍を離れて息抜きに此方に来たのだが、案の定迷ってしまって…道を知ってるの?」
「余はこの城に住んでいるのだ。知らぬ訳がなかろう」
この城に住んでいる、ということは相当に身分の高い家の者らしい。改めて見れば身に纏うローブのような服や、装飾品、頭上の小さな冠は非常に高価そうな造りだった。
「あの、貴方は一体?」
そこで相手は一瞬、少しだけ眉をひそめて意外そうな顔をした。
「…そうか、まだ父上にも兄上にも会ってはおらぬのか」
「え?」
相手の小さな呟きが聞き取れず聞き返した僕の問いには答えず、相手は突然目を伏せて誰かに向かって小声で話し始めた。
「アルケイン!すぐに中央の庭園へ来い!……なに、休息中?余の命令が聞けぬのか?さっさと来ないと貴様の地下倉燃やし尽くすぞ…場所?いつもの所に決まっておろう!」
再び目を開けた相手は小さなため息を着くと、ぶっきらぼうに言った。
「今使いを呼んだから奴に着いて行けばいい。祖父の元へと帰れようぞ」
「あの…今のは?」
「む、ルスランの者は念話を使えぬのか?」
「念話?分からないけど…魔導士なら使えるのかな?」
「お前は剣士なのだな」
「ああ!僕は王である以前に、お祖父様のような立派な騎士になるんだ!」
「それはそれは頼もしいですねえ」
突然背後から第三者の声がして、僕らは入り口の扉の方を振り返った。
そこに立っていたのは貴族のような出で立ちの一人の男だった。羽根飾りの付いた仮面と容貌のせいでひどく目立つ姿だというのに、その気配に全く気が付かなかったことに僕はひやりとした。
「…遅いぞアルケイン」
「遅くないですよ!殿下の基準がおかしいんです!」
「そこの者、ルスラン王家の王子だそうだ。迷ったらしいから本城まで案内しろ」
「そして無視だなんてひどい!」
怪しげなこの仮面の男がどうやら「使いの者」らしい。
男が僕をこちらへ招くと、役目は終わりだとでも言うように黒髪の主は僕に言った。
「ではアキレス、さらばだ」
「あっ…ありがとう。このアキレス、貴方に出会えたことは忘れません。…お名前は?」
そこで初めて、相手は小さな笑顔を見せた。
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