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「余の名はネフィリムだ」
僕はその微笑みに後ろ髪を引かれながらも、アルケインにつられて薔薇の園を後にした。
「…アルケイン殿、ひとつ聞いても良いだろうか?」
「呼び捨てで構いませんよ。僕はただの殿下の使いですからね」
話してみると、怪しげな見た目のわりにアルケインは気さくな奴だった。
「先ほど広間では見なかったが『殿下』と呼ぶからにやはりネフィリムはネクロスの…」
「そうですよ。アキレス殿下が先ほどお会いしたのはネガン陛下と皇太子殿下ですね。殿下には兄上がお二人いらっしゃいますので」
「…あのように美しい人がネクロスにおられるとは思わなかった」
「ふふ、まぁ殿下はあまりネガン陛下には似ておられないですし、ご兄弟の中で一番お美しいですね」
ネガン帝の威圧感のある佇まいを思い出し、僕は慌てて弁明した。
「そっ、そういう意味ではっ…!」
「大丈夫ですよ、僕は言ったりしませんから。それより…」
目の前の男が怒っているのではなく笑っていることに、僕は気が付いて顔をあげた。
「…アキレス様は、殿下が気になるのですか?」
「なっ…そ、それは!」
「図星ですか~?お顔が赤いですよ?」
「そっそれは…あんなに美しい方には今までお会いしたことが無いけど……!」
「…ふふふ」
アルケインは勝手に納得したように歩いて行ってしまう。悔しいやら恥ずかしいやらで僕は彼の背中をばしばしと叩いた。
「おおアキレス殿下!どこにいらっしゃったのです!」
「すまない、道に迷ってしまった」
「陛下も心配なさっております故、早く大広間に…この者は?」
お付きの近衛兵が警戒心のこもった眼差しでアルケインを見やった。
「彼はアルケイン。私を案内してくれた者だ、心配するな」
「お役に立てて光栄ですアキレス様。では」
アルケインは兵士の方には目もくれず、優雅に一礼をすると風のように去っていった。
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