第一章 その1“なぎのすけ”

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雪も解け、空は澄み渡り、桜の木が芽を付ける初春―― 「良いか“梛之介<ナギノスケ>”よ…… 儂が倒れようが、惚けようが、将又(はたまた)死のうが、父上様を超える強い“漢(おとこ)”になるまでは、この家の敷居は跨がせんぞ」 家の前にある立派な桜の大木を見上げ、櫻禅寺三十六代目当主・櫻禅寺 松左衛門(オウゼンジ マツザエモン)は語る。 「おぅ!オレは父ちゃんよりも、つよぉ~い“漢”になってからかえって来るかんなっ!! じっちゃんにだって負けないくらい、つよぉ~くなるんだっ!!」 「ひょっひょっひょっ! それだけ元気ならば、泣き言なんぞ言うでないぞ?」 仙人の様な髭を撫で付け、空を仰いで笑った。 「オレが泣くワケないだろっ!」 余裕な態度で腕を組む梛之介の頭を、祖父の松左衛門は愛おしそうに撫でる。 「賑やかなのがいなくなるのは…寂しいのぉ」 松左衛門が寂しげに眉尻を下げた。 「じっちゃん……」 その顔を見た梛之介の大きな瞳が潤む。 すると、空を見上げていた松左衛門が、梛之介へ視線を移した。 「言った傍から泣いとるじゃないか」
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