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雪も解け、空は澄み渡り、桜の木が芽を付ける初春――
「良いか“梛之介<ナギノスケ>”よ……
儂が倒れようが、惚けようが、将又(はたまた)死のうが、父上様を超える強い“漢(おとこ)”になるまでは、この家の敷居は跨がせんぞ」
家の前にある立派な桜の大木を見上げ、櫻禅寺三十六代目当主・櫻禅寺 松左衛門(オウゼンジ マツザエモン)は語る。
「おぅ!オレは父ちゃんよりも、つよぉ~い“漢”になってからかえって来るかんなっ!!
じっちゃんにだって負けないくらい、つよぉ~くなるんだっ!!」
「ひょっひょっひょっ!
それだけ元気ならば、泣き言なんぞ言うでないぞ?」
仙人の様な髭を撫で付け、空を仰いで笑った。
「オレが泣くワケないだろっ!」
余裕な態度で腕を組む梛之介の頭を、祖父の松左衛門は愛おしそうに撫でる。
「賑やかなのがいなくなるのは…寂しいのぉ」
松左衛門が寂しげに眉尻を下げた。
「じっちゃん……」
その顔を見た梛之介の大きな瞳が潤む。
すると、空を見上げていた松左衛門が、梛之介へ視線を移した。
「言った傍から泣いとるじゃないか」
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