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雪が降っていた。
ゆっくりと、ゆっくりと、真っ白な雪が、小さな街を銀色に染め上げていた。
道を歩く人々の吐く息は白く、誰もが暖かそうな上着を身にまとっている。
――ガシャーン!!
ガラスの割れる音が、夜の静寂を破った。
通行人たちは一瞬足を止め、しかし再び何事もなかったように歩きだす。
自分たちの世界から、その“いつもの”騒ぎを排除するかのように……。
「ほんっと使えねぇなぁ、お前は、ああ!? ガキのくせして働かせてもらってるくせに、ろくに働きやしねえ! 今日はもう帰れ! 邪魔なんだよッ!」
「あぅ……っ」
男の怒鳴り声、ついで鈍い音が響いたかと思うと、古ぼけた木製のドアから、ぼろぼろの服の子供が放り出された。
ぼさぼさの灰色の髪。
長い前髪で隠された、虚ろな緑色の瞳。
着ているワンピースは薄汚れ、元の色が分からないほどだ。
口元に血を滲ませたその少女は距離を取る通行人に見向きもせずゆっくりと立ち上がると、狭く薄暗い路地裏へ入っていった。
さく、さく。
裸足の少女は無言で歩き続ける。
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