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曲がり角がいくつもある迷路のような隙間を馴れた様子で進み、
「……っ」
さく……っ
今までの道よりも少し広い空間に着くと、少女はようやく立ち止まった。
古い建物が密集する地区で、屋根があるため雪は届かない。
凍えるような寒さの中、少女はすとんっ、と座り込んだ。
「……。――♪~~~~」
膝を抱え、突然少女は歌を口ずさみ始めた。
小さく、今にも消えてしまいそうな儚い歌声。
しかし、明るく優しさに満ちあふれている。
少女の緑色の瞳が、生き生きと輝きだした。
立ち上がり、歌い続ける。
―銀色の 花びらを
―いつか きっと
―あなたに 遠くのあなたに
―届けるわ
―あなたの願いは 私の願い
―あなたの哀しみは 私の哀しみ
―ふたり約束の 銀の 花びら
―いつか きっと 届けにゆくわ
―いつか きっと
―いつか きっと
暗く寂しげな路地裏に、透き通った歌声が響いていく……。
それは普段は誰にも聞かれることなどない。
しかし、今日は違っていた。
『――あら、この歌……』
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