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「~~♪――ッゲホッ、うっ……」
歌が途切れ、疲れからぺたんと座り込んでしまう。
「……っ、さ、さむい……」
かたかたと、少女の体が震える。
集中が切れた途端、寒さが全身にしみたのだ。
(あした、も、お店、行かなきゃ――)
身寄りのない小さな少女の、たった1つの仕事場。
1ヶ月前街を彷徨っていたとき、外面だけはいいレストランの店主に声を掛けられ、以来毎日食事をもらう代わりに雑用をしているのだ。
しかし、それは働く人間が見れば一目でわかる、過酷な労働だった。
住む場所は無いため、路地裏で寝るしかない。
(……雪は、きれいだけど、寒いから……キライ)
「だあれも……いない」
少女は、帰る家がないとか、店主に毎晩殴られるとか、そんなことは気にしていなかった。
ただ、誰かといたかった。
「……だれ、か」
眠りに堕ちようとしている彼女の唇が、微かに言葉を紡いだとき。
『呼んだかしら、歌姫さん?』
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