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「アーシェちゃん、こっち手伝ってもらえるかしら?」
「は~い、今行きま~す」
私はとある町に住んでいた。
煉瓦造りの家々が立ち並ぶ穏やかな町に。
「井戸の水、汲んできますね」
「ああ、お願いするよ。
いつも悪いねぇ」
お隣りのおばさんは優しい笑顔が絶えない。
「いえいえ、いつも良くしてもらってますから」
「そうかい?
そう言って貰うとうれしいねぇ。
アーシェちゃんはきっといいお嫁さんになるよ」
「やだっ、おばさんったら」
私は笑う。
楽しくて、嬉しくて、時々辛くて、そんな当たり前の毎日の中で。
ガバッ!
「よいっしょっと」
私は井戸で水を汲んだ。
町から少しだけ離れているここは私のお気に入りだった。
「空気が綺麗。
空も青いし、気持ちいい」
私は横の岩に腰掛ける。
水を汲んだ桶の水面に私の顔が映る。
私は周りに聞くところ、町一番の美人らしい。
「そうかな?」
この16年間毎日見ている顔だ。
美人か可愛いかどうかなんてわからない。
「休んだし、帰ろっと」
私は軽い足どりで、井戸を後にした。
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