強がりな先生と赤い花

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  自分の汗でずぶ濡れになりながら、小さな私は、焼け付くような夏の日差しの中で、大きな声を張り上げた。 『しゅくだいをだします! とっても だいじ な しゅくだい です! だから、ちゃんと ていしゅつ きげん までに だしてください!』 涙は頭の奥で溜まってユラユラしていたけれど、精一杯涙をせき止めてみせた。 彼の「先生」として、泣くわけにはいかなかったから。 『せんせい が いま 1ばん いいたいことは、なんでしょうか!』 熱い風が吹いた。 私の声も、ポニーテールも、車の窓に突っ込んだ小さな手も、その手に握られた真っ赤なストロベリーフィールドの花も、大きく揺れていた。 『この もんだいを、ていしゅつ きげん までに せんせい に いいにきて ください! ていしゅつきげん は せんせい が おとな になるまでです! でんわ じゃダメです! てがみ じゃダメです! ぜったい、ぜったい! せんせい に あいにきて ください!』 彼は…私の唯一の生徒は、私が差し出したストロベリーフィールドを受け取ると、 『ありがとう…先生…。』 涙を拭いながら、か細い声で呟いた。 その声、その言葉で、泣かないと決めていたのに、目頭が熱くなるのを止めることが出来なかった。 汗を拭うフリをして必死に涙を拭いているうちに、彼が乗っていた車が熱い排気ガスを吐いて走り出した。 彼は車の窓から顔を出して、ずっと叫んでいた。 『さよなら先生!絶対宿題出しに行くから!』 涙は次から次へと流れて来て、「また逢いましょう」だとか、「お元気で」だとか、そういった気の利いた台詞を言う余裕はまるで無かった。 私は霞む視界の向こう側に居る彼へと、とにかく声の限りに叫んだ。 『さよなら!さよなら!』 この日は、私の9歳の誕生日だった。 * * * 人っていつから大人になるんだろう。 20歳になって成人式を迎えれば大人になるんだろうか。 16歳になって結婚出来るようになれば大人になるんだろうか。 それとも、精神的に成熟しなければ、いつまでも子供でいられるんだろうか…。 教室の窓から満開の桜を眺め、そんなことを考えていると、 「入学式お疲れ様です。それでは…ーー。」 新しい担任教師が教卓に立って話し始めた。 大石 遥香、15歳と7ヶ月。 今日から私は高校生になった。 彼と出逢い、そして別れてから、もう7年が経つ。
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