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高校生活の諸注意、クラス全体の簡単な自己紹介が終わり、号令で『さようなら』と挨拶をすると、教室がホッとしたようにざわめき出した。
「遥香ぁー、帰ろー。」
中学時代からの親友、優奈が声を掛けて来て、私は笑顔で憂鬱な思考を掻き消すと、鞄を手に取った。
「うん。帰ろう。」
「おーい!そこの2人!」
優奈と話しながら廊下に出ようとしたとき、誰かに呼び止められた。
振り返ると、浅黒い肌に切れ長の目をした男子が、大きなスポーツバッグを抱えてドタバタと走って来た。
彼は白い八重歯を見せてニカッと笑うと、
「野球部のマネージャーやらね?チラシ渡しとくからさぁ、気が向いたら部室来てよ。んじゃ!よろしく!」
戸惑う私達にチラシを押し付け、彼は嵐のように去って行った。
「上野 圭君だっけ?あの人、格好いいよね。」
優奈はそう言うが、私は正直、興味がない。
「そう?」
廊下を歩きながら適当に返事を返すと、優奈は面白くなさそうに口を尖らせた。
「格好いいじゃん!…あぁ、遥香は今でもストロベリーフィールドの人だけなんだねー。」
優奈はいかにも勝ち気そうな大きな目を細めて挑発的に笑った。
私はこういうガールズトークが好きじゃない。
適当に流すために、
「そんなことないよ。」
と、嘘をつくと、
「嘘だね。」
ずばりと言われてしまった。
「どうして嘘って言い切れんの?」
「女の勘だよ。ワトソン君。」
「大した名推理だね。」
私が言うと、優奈は笑いながら長く艶やかな黒髪を軽く背に流した。
「私だったらその人捜すよ。欲しいモノは自分の手で掴みに行かないと。あっちからはなかなか来ないんだから。」
軽い口調で言うけれど、優奈の目には真摯な光が宿っていた。
そう、優奈は、そういう人だ。
欲しいものは自分の手で掴み取りに行く。
でも、私は違う。
「ダメだよ。宿題は生徒が出しに来なきゃ。」
冗談めかして言うと、優奈はムッと顔を歪めた。
「それって逃げてるだけじゃない?再会したとき『あんた誰?』って言われるのが恐いんじゃないの?それって、ある意味相手を信じてないんじゃない?」
「…そうかも。でも、私は先生だから。先生にとって信じるってことは、待つってことなんだよ。」
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