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暗闇の中で、朧な不安定に揺れる蝋燭の火だけ。
涙に溢れている緋色の瞳に、それは更に不安定に揺れる。
泣くことは、これが最後になる。
もう、動けるのは今が最後。
襖を開ければ漆黒の闇と今いる部屋以外が大地と一緒に下へ。砕けたクッキーのようにボロボロと落ちて行く。
下は、奈落で真っ黒。
数日前には平和と平穏で町並みが広がっていたというのに、面影は何もない。
「始めよう。私を殺せ――ディ」
後ろに控えていた長身の青年。
清めの為の水浴びをしたために、髪は重く濡れていた。
深い色合いの目と頬に流れる水は、それだけではない。
言ったことは、永劫の別れであり最愛の女性を殺すという事だった。
奥歯を強く噛んで、鞘から蝋燭の火と女性を写りこんだ。
「――迷うな。扱えるのは、お前だけなんだよ」
言っていることがひどく惨いことだと、わかっているのか。
声が出そうになるのを奥歯を噛み締めて、抑える。
柄を握り締めて、一気に細く白い首筋を斬った。
――都を頼む。
唇が動いて、それを青年は読んだ。
一太刀で全てが消えた。
一太刀で、最愛の女性は動かなくなった。
「――貴方がいなくなった都をどうすれば良いと言うのですか……」
光の数多の粒へと、姿を変えて行く。
彼女は、数時間すればまた構成させれる。
その時に青年は、糧として消え去る。
二人が個体としていられるのは、これが最後だった。
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