本編

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乗り物の先端に、シンタロウは立つと、 「ねぇ、さっきから俺を呼ぶのは誰?俺の事を、知ってるの?俺は誰なの…。教えて…」 シンタロウの声が小さくなり、とぼとぼと戻って来る。 「声が聞こえない…」 さっきから、シンタロウの様子を見ていたみんなは、 「なぁ、シンタロウ。その声は確かにシンタロウを呼んでいたんだな?」 タケシの問いに、うなずくシンタロウ。 「でもね、その声は僕達には聞こえないんだよ」 ナオキが言うと、 「でも、俺には分かるんだ。あっちの方から俺を呼んでる声が」 そう指差した方向は、封印の地に向う方向と一緒だった。 「シンタロウさん、とても不思議な力を持ってますね。空中から物を出したり、危険を察知したり、誰かの呼びかけは聞こえるなんて。もしかすると、それでブラック・オニキスが狙っているのかもしれませんね」 ヒロミが感心するが、 「そんな、対したものじゃないよ…」 と、落ち込むシンタロウ。 それを励ます様に、 「ほら、俺が作った料理を食べろ。元気でるぞ」 タケシは、シンタロウに食事を進める。シンタロウは、ゆっくりと食事を口に付ける。 「うん。おいしい」 「だろ?おかわりあるから、どんどん食べろ」 と、言うタケシだが、裏では苦労している。 一人暮らしが長いせいで、料理のレパートリーは多いのだが、保存食はどうしても食材が限られる。そこで工夫して、毎日飽きないようにしているのだ。 もっとも彼は、そんな苦労も知らず、 「タケシの料理、相変わらずうめぇや」 と、はしゃいでいるのだが。 日が立つに連れ、シンタロウは、一日に何度も先端に立って、ぼんやりしていることが多くなった。それに連れて、乗り物の動きが速くなって行った。 「これは、封印の地が、近くなったと言えるでしょうね。そろそろ、近くの町に寄って、最後の調整をしましょう」 ヒロミの提案に、全員賛成して、近くの町に向う。 この辺りは荒野で、何もなく、町など無さそうに見えたが、ポツンと町が見えて、ホッと安心する。町の近くに、乗り物を置いて、一軒しかない宿屋に向う。 「おう、珍しい客だ。こんな最果ての町に来るなんて」 「最果ての町?」 ヒロミが聞くと、 「そうさ。こっから先は断崖絶壁。何もないところだ。それを見に来る奴もいるから、こうして宿屋やっているけどな」 と、宿屋の主人の言葉に、首を傾げるヒロミ。image=369217671.jpg
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