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「いやいやいやいや」
思考が追い付かないまま、口だけが先行して言葉を紡いでいた。
つまり俺はそれほど焦って、動揺して、困惑していた。
「いきなり意味わかんねぇしってか剣道とかしてねぇし意味わかんねぇし怖ぇし亡霊ってなんだよ、なんで透けてんだよこの人!」
早瀬が俺を見て明らかに嫌そうに眉を潜めた。
なんて恐ろしい顔だ。ミスコン有力候補とは思えない。
「鋏介、あんたそれでも男?タマついてんの?」
「腑抜けが」
「………」
美人ふたりに睨まれ、蔑まれ、罵られて、俺は黙るしかなかった。
どうしてこうなった。
「全く見当違いだったわ、くたびれ損の骨折り儲けってとこね」
「…全くじゃな」
「まぁ、使えないなら不本意だけどプランBに移るしかないわね」
早瀬はおもむろに着ていたシャツの裾を引きちぎり、負傷した右足にきつく巻き付け、そしてすくっと立ち上がった。その瞬間走ったであろう激痛に早瀬の表情が明らかに歪む。
「お、おい早瀬…!」
「倫!」
「っ、大したことないっつってんでしょ」
「バカ!そんな血だらだら流して大したことないわけ…」
「っるさい!」
早瀬の大声ががつんと耳をつんざいた。
心底忌々しそうに俺を見下す、早瀬。
意外だった。
何も言えなかった。
「…根性なしの愚図は黙ってなさい、私が行くわ」
そのとき何故そんな行動に出たのか、なんて、多分俺は一生かかってもうまく説明できないだろう。
気がついたときには、俺は早瀬の腕を掴んでいた。
「待て」
そして心の中では、同じ言葉ばかり繰り返していた。
頼むから、そんな顔するな。
頼むから、
「俺が、やるから」
だからそんな、『今にも泣きそうな顔』なんかするなよ。
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