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脳裏をよぎったのは、今朝のなんでもない日常だった。
鉄がいて、ついでにいけすかない薫がいて、いつものように言葉を交わして、いつものようにじゃれあって、鉄が学校に行って…あぁそうだ、今日からクラスマッチの朝練があるんだっけ。鉄は可愛い上にスポーツ万能だしな、おつむはちと弱いが、その辺はあれだ今からまだ十分に伸びる。はずだ。
そして俺も電車に乗って、大学に着いて…早瀬に、会って…
仲間とバカな話して、
鉄は、もう飯食ったかな。
薫に変なことされてねぇだろうな。
「鋏介ッ!」
夾の声で反射的に刀を振る。
両手で一振りすんのがやっとなそれは、燃え落ちてくる建物の残骸を辛うじて振り払うには足りる。
だが…
「っ!」
振る度に大きくよろめく。
刀ってのは見かけに比べてずっと重たいのだ。漫画やアニメじゃ掴んだ途端にばったばったと敵を薙ぎ倒す主人公なんかもいるが、あんなものは完全にファンタジーやメルヘンの話だ。俺は同年代なら比較的力のある方だと自負していたが、それでもやはり思うようには動けなかった。
「たわけ!なんじゃその振りは!隙がありすぎではないか!死にたいのか!」
「っせぇな!慣れねぇんだから仕方ねぇだろ!寧ろ初めてでこんだけやってんだから誉めろよな!」
「そちへの誉め言葉なぞ、阿呆程度がちょうどよいわぃ!」
「あぁそうかよ!畜生!」
さっきからずっとこんな調子だ。
燃え盛る炎の中、ことあるごとに口論になる。この凄まじい熱気と一酸化炭素の中平気でいられるのはこいつの術とやらのおかげらしいので、仕方なく着いていかざるをえないのだが…それにしても、何か腑に落ちない。
倫といいこいつといい、俺の前でだけ態度違いすぎねぇか…?
「余計な考え事はするな、敵の気配を察知することだけに集中しろ」
「…あいよ」
夾がぴしゃりと釘を刺す。
読心術でも心得てるのかもしれない。
溜め息が出た。
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