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「あ、鋏にぃやっと起きた」
ドタバタと支度をしながら転がるように階段を降りてきた俺を出迎えたのは、すでに制服姿に着替えた愛しの妹、鉄だった。
「ご飯おにぎりにしといたから、あれだったら行きながら食べちゃいなよ。」
「おぉ、悪ィな。」
小さな鉄の頭をくしゃくしゃに撫でる。髪がぐしゃぐしゃになるとかなんとか喚いて俺の手から逃れようとするそんな姿さえいちいち可愛いんだから困る。お兄ちゃんは心配だ。
時間もないので仕方なく鉄を解放し、ラップにきちんと包まれたおにぎりを鞄に放り込んでいると、ふいに玄関の呼び鈴が鳴った。
「はーい、あ!薫!」
聞こえてきた固有名詞に、眉がひくりと動いたのが自分でもわかった。
薫。篠宮薫。
俺がこの世でもっとも嫌いな名詞だ。
「ちょっと待っててね、鞄取ってくるか…ひゃわッ!?」
「愛しのお兄様が持ってきてやったぜ、鞄」
振り返った途端ダイニングにいたはずの俺がいたことに驚いたのか、変わった鳴き声をあげて後ろにすっ転びそうになった鉄を抱き止めついでに額にちゅっとキスを落とす。
もちろん玄関先に立ってる篠宮薫にメンチきりながらだが。
「…おはようございます」
「あぁなんだまだいたのかい薫くん!こんな朝早くから御苦労様!うちの妹に何か用かな!」
「鋏にぃ!」
鉄がたしなめるように言って、俺の手から鞄を奪う。そのままするりと腕から抜けてローファーを突っ掛け薫の腕にしがみついた。なんてことだ。
「今日からクラスマッチの朝練があるから、もう行くね!鋏にぃも遅刻しないようにね!」
「行くねって、その状態のまんまか?お兄様は許さんぞ!離れなさい!」
「電気と戸締まり忘れないでね!いってきまーす!」
「あ」
バタンッ
玄関の扉は強引に閉まった。
最後に何か言おうとしていた薫も鉄に半ば引きずられるようにして出ていった。体格差は倍もあるくせに。まぁあんなやつのことはどうでもいい。登校中に犬の糞でも踏めばいいだけの話だ。
ちらりと時計を見た。
時間の神様ってのはなかなかのサド気質だなと思った。
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